「唄う少女」

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(ガチャ) 屋上。 そこは俺のサボりスポットかつ、授業中はあの死神のもたらす死の危険ですら100%回避できる 聖なる場所、つまり俺にとっての聖域である。 樹「ん?」 ホームルームの始まるこの時間、ここに来るのは俺だけだと思っていたが……。 今日は先客がいるらしい。 女の声「はこーにーわーは♪ くりかーえし詠う♪せかいーはー嘆きて♪たゆたい代わる♪」 樹(歌声?) 歌声は、か細い女の声だ。 どこか悲しげに、しかし矛盾して楽しそうに響く。 女の声「七夜の終わりに♪静寂の中♪はこにわは静かに終わる♪」 樹(まいっか。綺麗な歌声だし、美人とお近づきになれるチャンスかも) 男の……否、漢のロマンを背に、声と容姿は必ずしも一致しない 現実を無視し、声のする方へと 近寄る俺。 (かさかさかさっ!!) まずは容姿を確認できるように、制服が汚れるのもいとわない、 ゴキブリみたいなホフク前進で。 女の声「歓喜ととーもに♪うーまれーしー♪世界は………♪」 樹(かさかさ……ぴたっ) あそこか。 給水塔の裏手の方から女の歌声は聞こてくる。 くそ……。この位置じゃ姿を確認出来ないな……。 樹(? 給水塔の……裏手??) ふと、気付いた。 よく辺りを見てみると、屋上を 囲う金網は給水塔の入り口……。 「手前」で壁に繋がっている。 つまりそれは、声がフェンスの 向こう側からしてるってことだ。 樹(お、おいおい!?そんな所、いくら何でも危険なんじゃないか!?) 俺はホフクモードから女の子救出モードに切り替えると、陸上部の 部長である菜摘さえ真っ青になる勢いで、給水塔の裏手が見える 位置に移動した。 女生徒を見た瞬間。 樹「……!?」 俺は2つの理由で驚いた。 女生徒「………」 1つ目のサプライズはラッキーと言おうか期待通りと言おうか、 女生徒のその容姿に驚いた。 ……いや、いい意味でな。 黒く艶やかに、日の光を浴びて 輝く腰まで伸びた髪。 雪の様に白くか細い、繊細にしてしなやかな手。 そして何故か和風な印象に反して左が琥珀色、右が深紅色をした オッドアイ。 その姿は、まるで。 人に見られるために作られた、 観賞用の人形ではないかと思えるほどに美しかった。 が、しかし。
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