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俺は鞄を拾うと、片足で跳びつつ靴下を掃き、玄関へと向かった。
途中の台所でまな板に乗っていたハムの切端をくわえると、妙に
デコボコになったドアを開ける。
(ガチャッ)
菜摘「ふんっ!!」
──瞬間、視界いっぱいに広がる革製の鞄。
樹「間合いが甘いっ!!」
俺は顔面に衝突寸前の革の鞄を、まるで何かの達人の様に首を捻るだけでかわして───
(ゴッ!)
樹「ふげっ!?」
菜摘「……何年付き合ってると
思ってんの?アンタが左にかわすのは予想済みよ」
左側頭部に、鈍痛。
鞄をかわすのには成功したが、
左側に倒した頭が自分の開けた
ドアに頭突きを食らわせていた。
……しかも、カド。
樹「……なぁ、なっちー」
俺は深刻なダメージにより視界が揺れる中、怒りと痛みと涙で歪む顔を、頑張って笑顔にする。
菜摘「なに?いっちー?」
そんな俺の態度に対して菜摘は
どこか冷めた笑顔を向け、両手を「バギボギッ」と鳴らしていた。
……結論。
鉄製の玄関のドアを冗談どころか本気で、しかも素手でベコベコにしてる幼馴染みこと柏稜 菜摘
(はくりょう なつみ)。
コイツを力ずくで引きずり倒し、人前では恥ずかしくて出来ない
実力行使で泣かせるのは不可能だろう。
よって────
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