331人が本棚に入れています
本棚に追加
/697ページ
樹「ごめんなさい」
菜摘「……ま、分かればいいわ」
ここは時間も無いんだし、謝って穏便に済ませるしかないハズだ。
……うん。
菜摘「まったくもう!ほら、またアンタのせいでギリギリじゃない……さ、とっとと走るわよ!?」
樹「サー・イエッサー!」
一部分だけ妙に面積の膨らんだ
頭を撫でつつ、靴箱の上の写真
立てを一瞥する。
樹「………。行ってくる」
俺は鍵を掛けると、原付並の速度で爆走する菜摘を追い掛けた。
菜摘「はぁっ……はぁっ……」
樹「ふぃ~~。走った走った」
───学校に到着。
時刻は8時24分。ホームルームまではまだ5分近くある。
まったく、菜摘が今まで1度も
俺を陸上部にスカウトしないのが不思議なくらいの好タイムだ。
菜摘「なんで……アンタ…そんな余裕……?」
ゼィゼィと苦しそうな呼吸の合間に、菜摘が納得の行かないような顔で疑問の声をあげる。
樹「さあ……?お前にいつもブン殴られてるから、丈夫に出来てんじゃないか?」
ま、如何に菜摘が陸上部のエース兼部長といえ、あれだけ追い着き追い越されるデットヒートを繰り返せば、こうなるのも当然だ。
樹「言っとくが、だからと言って感謝なんて微塵もしてないぞ?
お前のパンチを食らって、15の若さで前歯が2本も人工になったことあるし」
菜摘「……うっさいわね。
とっくに新しい歯が生えたんだしもう時効でしょ?」
樹「馬鹿言うな。いずれ治るなら腕をヘシ折っても罪にならないっていうのか?」
菜摘「ぐっ……!?ほ、ほら!!
とっとと教室いくわよ!」
樹「……はいはい」
流石にやり過ぎたと自覚しているらしく、菜摘はバツの悪そうな
顔で話を打ち切ると、
菜摘「ほら、樹!せっかく走って間に合ったのに、立ち話して校門閉まっちゃたら意味ないわよ!」
俺を置いて、そそくさと玄関へと歩き出した。
樹「へいへい」
──菜摘に叩き起こされ、菜摘と走って登校し、いつもギリギリに到着し、一日が始まる。
樹「……まあ、結局」
一ノ瀬 樹の日常はなんの変化も無く、今日もいつも通りに幕を
開けたわけだ。
最初のコメントを投稿しよう!