「日常の陰で」

2/3
前へ
/697ページ
次へ
下駄箱で靴を履き替える為に 一旦、菜摘と別れた。 この南陵高校、元は女子高だったのを、ムリムリに男女共学校に 改装した為、旧昇降口と新昇降口が校舎の西側と東側にある。 よってここから教室に行くまでの数分間が唯一、あの小煩い菜摘 から解放されるチャンスなのだ。 樹「──フリーダムッ!!自由を掴め!!」 ……自分で叫びつつ、全く意味が分からないが。 この教室に行くまでのほんの数分間が、どれだけ心休まる貴重な 時間なのか……その重要性は計り知れない。 と、 樹「あん?」 ──そんな短くも貴重な時間、 なのだが。俺はふと、視界に それを見付けてしまった。 樹「なんでここに……?」 俺の下駄箱の隣には、柱が立っている。そして柱の前にはゴミ箱がある。 購買で買ったパンの包み紙やら、飲み終わったジュースのパックを捨てるために設置されたものだ。 その中に─── 樹「……もったいないな」 何のことはない、普通の上履きがあった。 樹「……まったく。今の世の中、エコロジーだろ?まだまだ履けるじゃないか」 とか言いながら何気なく上履きを持ち上げた瞬間、 樹「!!いってぇ~~!!?」 爪の間に何かが刺さった様な、 鋭い激痛が走った。 条件反射で痛む指先を舐めようと口に運びかけたが、すんでの処で汚そうだから止める。 樹「……………」 引っ込めた手を恐る恐る伸ばし、壊れ物を扱うみたいに慎重に靴を観察してみると。 樹「………。クソが……」 靴の内側にテープで画描が留めてあることに気が付いた。 (ビリッ!!) さすがの俺もなぜ画鋲が入ってたのかを瞬時に理解し、テープごと中の画鋲を引き剥がす。 と、 (パサッ) 中から落ちる、一枚の紙切れ。 俺は2つ折りに畳まれた紙を拾い上げると、慎重に開いてみる。 樹「………」 紙の側面には、剃刀の刃が裸で 留められていた。もし画鋲に気が付いても、刃に気付かなかったとしたら大怪我は必至だったろう。 樹「………」 紙は手紙になっている。 ……否、それは間違いだ。 これは手紙なんてものじゃない。
/697ページ

最初のコメントを投稿しよう!

331人が本棚に入れています
本棚に追加