「日常の陰で」

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樹(……ぴくっ) 書かれてるのはこの靴の持ち主を人間とすら見ていない、辛辣な 言葉の群れ……。 例えば「死ね」。 例えば「キモイんだよ」。 例えば「近寄んな」。 例えば「くたばれ」……。 ……つまり凶器としか思えない、狂気の言葉だ。 樹「…………」 たった一枚の紙切れがこの宛名の人間の人権も、人格も、そして 生存する事すらも否定している。 潮笑している。 見下している。 死ねと言っている。 (ギリギリギリ……!!) 拳を握り締め、ただ一言。 樹「………頭に来た」 ──俺は誰に宛てられた紙キレ なのかを上履きに書かれた名前で確認すると、 樹「2―A、奥里……か」 「奥里」の名前がある下駄箱を 探してみた。 わざと見付けやすいようにこんな所にあったんだ。恐らく下駄箱も この辺りにあるんだろう。 樹「──あった」 俺の下駄箱からさほど遠くはない位置に、探してた名前を発見。 プレートには「2年A組 奥里 理観(おくさとりみ)」と書いてある。 それほどありふれた苗字じゃないだろうし、今探した限りだと 「奥里」という名前は他に無い。 多分、間違い無いはずだ。 樹「ここもか……」 靴を入れようと開き戸を開けた 瞬間、目に入るのは汚い言葉や ひわいな落書き。 いい加減、気が滅いる。 樹「…………」 ……誰にも会いたく無い。 教室に顔を出してもし、何か気に食わない事があったとしたら、 この溜りに溜った怒りを誰かに ぶつけてしまうかもしれない。 俺はどうも昔から、自分の感情をコントロールするのが苦手だ。 樹「……ダメだ、フケよう」 俺は靴をあるべき場所に戻すと 教室には行かず、屋上へと続く 東階段へと足を向けた。
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