雨が魅せるまぼろし

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「スー ハー(タバコを吸っている」 「タバコ、人に見られますよ」 オレは昔のように注意をした。 最高僧の称号である三蔵法師がタバコをやっている所など、誰かに見られたら厄介事になる。 これはオレの口癖だった。 「大丈夫ですよ。ここにはあなたと私しか居ませんから」 「またそんなことを…」 オレはため息混じりに返す。 しばらくの沈黙のあとお師匠様が急に真面目な顔になった。 「江流、一つ質問してもいいですか?」 「はい なんですか?」 「あなたは私に拾われて幸せですか?」 意外な質問に戸惑いオレは言葉を失った。 「私はこの寺院の三蔵法師です。そのため私に拾われたあなたは、お寺の修行僧として寺に仕えることになってしまいます、寺での規則はお世辞にもラクで楽しいものではありません。しかも私の愛弟子のせいか、他の者から無粋な嫌がらせなどもされてきたはず。そんな生活にあなたを巻き込んでしまっことを、本当にすまないと思っています。江流、あなたの意見を聞かせてもらえますか?」 オレは今まで言えなかった本音を返した。 「そんなことは気にしていません。もしあのとき拾われていなければ、もうこの命はなかったと思うし、それに私が信じられるの自分自身です。その私にとって唯一信じられたのはお師匠様、あなただけですから、お師匠様のそばで仕事ができるだけで私は幸せです。」
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