1

6/48
前へ
/1247ページ
次へ
私たちから少し離れたところに、小さな遊具が、3台ほどあるこじんまりとした公園があった。 水族館の裏手のせいか、 いたのは、一組の親子だけだった。 3才ぐらいの男の子が、 お母さんらしき女性とブランコで遊んでいた。 それを、私は幸せな気分に酔いながらぼんやり見ていた。 男の子が、何かに気付き、ブランコからひょいっと降りる。 駆け出したその先に、男性がいた。 男の子のパパなのかな…。 嬉しそうに男性に飛び付く男の子。 抱き上げた男性は、かなり若そうだった。 「英児、きてくれたの?」 綺麗な艶のある声が、響いた。 英児という名に聞き覚えのある私は、思わず彼の腕から身を起こした。 「久しぶり。会いたかった…。」 そういって歩み寄る女性を、 子供を抱えていない方の腕で、 英児と呼ばれた男は抱き寄せた。 女性が、男の頬にキスをする。 私はドキドキしながら、 その光景を食い入るように見つめていた。 その男は、やはり、知っている奴だった。 バイト先のライブハウスに出入りしてる高校生バンドのメンバーのひとりだ。 用事や予定のない日も、放課後はよく、入り浸っている、バンド馬鹿。 年下のくせに、私のこと、ちゃん付けで呼ぶ、生意気な奴。 ヤバい。 ヤバいもの見てるのかも。 だって、あれは明らかに、年上の女性で、 あいつは高校生で、 雰囲気は、内緒っぽくて…。 あまりにジッと見すぎていたのかもしれない。 彼が、私の様子を不思議がった。
/1247ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68531人が本棚に入れています
本棚に追加