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「どうしたの?」
私は英児から目を離すと、
慌てて言い繕った。
「別に、あ、そうだ。私、もう一度ペンギン見たいな。あと、真ん中にあった大きな水槽も。」
半ば強引に、彼の手を引っ張りながら、私は座っていた芝生の上から立ち上がる。
水族館に向かって歩きだしながら、さりげなく、英児の方を振り返った。
もう一度本当にあいつなのか確認したいという、欲求に勝てなかった。
でも、私はすぐに振り返ったことを後悔した。
あいつが、
こちらを、ジッと見ていたのだ。
一瞬、目も合ってしまった。
やだ、ヤバいのは、私の方じゃん。
私は英児から目をそらすと、
早歩きで、逃げるようにその場を後にした。
私だと、英児が気づいたかどうかはわからない。
それでも、誰かにバレるわけにはいかなかった。
それが、もしかしたら、同じ立場の同志、だとしても。
彼との関係が壊れてしまうかもしれない綻びは、作りたくない。
そう思ってきたのに…。
「そうか、やっぱりいぶちゃん、あの人とそういう間柄なんだ。」
そういう英児の目が切なげに揺れる。
「もったいない。いぶちゃんに二番なんて、似合わないのに。」
英児が真顔でそんなこと言い出すから、私はつい、熱いものが込み上げてきそうになった。
一番になれない悲しみを、
英児は知ってるんだ。
私のように…。
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