第十四章

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静まり返った執務室に、海斗が息を吐き出すのがやけに大きく響いた。 「大丈夫か?」 「問題ありません」 自身を目的とした学園への襲撃に、フィゾルの死。 一般の生徒や教師たちの前で肩書きを明かし、一度取り逃したハイドとの再遭遇に、ゲート破壊時の感覚。 気遣うようなアテラの言葉にそう返した海斗ではあるが、数時間の内に一気に増えた情報を上手く整理できていない。 向き合うことを、直視することを避けた感情のことも含めて、時間が欲しいのが本音ではあった。 だが、ギルドマスターであり岩皇であるフィゾルが行方不明から死亡へと変わった以上、やらなければならないことは多い。 それに氷月海斗が蒼流の帝であることを明かした件についても、情報が回ればごたつく可能性は高い。 何せ蒼流の帝の異名を与えられたのは7年前。 学年からそのまま考えれば、10歳の頃からとなる。 いつかの折に理恵やルリ達も言っていたが、普通に考えればありえない。 同時にその肩書きを明かした陽皇や焔皇が、海斗が蒼流の帝であることを否定しなかったとしても、信じない者は多いだろう。 だからこそ、動きやすいうちに出来ることは済ませておきたいのだが。 「嘘付け。テメェが無理してるってのくれぇ分かんだよ」 「っ、アテラさん!?」 半ば強引にアテラが海斗の腕からフィゾルを奪い取る。 事前に申し合わせていたかのように更にそれをガゼルが受け取ると、止められる前にと彼は執務室から出て行った。 「どういうおつもりですか」 「いいからテメェはこっち来い」 海斗の睨みなんぞ知ったことではないとばかりに、アテラがその腕を掴む。 文句を言うよりも先に、切り替わった視界。 気付けば夕暮れ時になっていたのか、頭上に広がった空は橙に染まっている。 周りを木々が囲む中に、ぽつんと建つ家。 海斗にとっては見慣れすぎている、自宅の庭。 そこが、アテラが海斗を連れて移転した先だった。
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