第二章

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  ガギンッ、と重々しい音が響く。 無論、何かが海斗にぶつかった訳ではない。 「なん、だと……」 驚きに目を見張るヴァースの視界に映るのは相変わらず背を向けている海斗の姿。 そして海斗に向かって飛んでいった自身の使い魔である体長一mを超える鳥。 「村上さん、どうかなさいましたか?」 「あ、ありえねぇ…」 優雅に首を傾げる海斗に思わず村上の頬がひきつる。 海斗の手にはいつの間にか長槍があり、その細い柄で巨大な鳥の嘴を背後で止めている。 一瞬も後ろを見ていないのは村上が証人となるだろう。 海斗は背後を見る事無く、細い柄で嘴を受け止めてしまったのだ。 学生などの出来る技ではない。 「くす……取り敢えず、今は試合を終わらせることを優先致しましょうか」 その細い腕のどこにそんな力があるのか。 海斗は振り向き様に槍を振るい、遠心力をも使って鳥を弾き飛ばした。 「っ、どうして……」 「どうなさいました?」 にこりと微笑む海斗に何故か背筋が冷たくなる。 思わず後退りそうになる足をプライドで止め、ヴァースは海斗を睨みつけた。 「どうして貴様が槍を持っている!?」 「魔具の形の一つですから」 「形の一つ、だと…」 「えぇ。お見せした方が早いのかもしれませんが…」 海斗がヴァースとの間合いを一瞬で詰め、槍を薙ぐ。 槍は突いて使う者が多いが、突くという行為は中々リスクが高い。 一撃で仕止めなければ相手を突き刺したとしても、筋肉の収縮によって直ぐ様抜けなくなってしまうからだ。 今は模擬戦中で、相手の命を奪うわけではないのだから海斗も突くのではなく、横に薙いだ。 だが槍は咄嗟のことで動けなかったヴァースではなく、先程海斗が弾き飛ばし、再び海斗に襲いかかろうとしていた鳥を捉えた。 「なっ……」 「邪魔はされたく無いので、ね」 驚くヴァースにそう声を掛けた海斗は間合いを詰める前と同じ場所に佇んでいた。  
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