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「閻皇」
「……ここに」
自身の執務室に移転して直ぐに、海斗は閻皇を呼ぶ。
アテラと飛鳥を連れたガゼルが一拍遅れて移転してきたとはいえ、二人が姿を現してからそう間を空けることもなく隅の影から姿を見せた閻皇に、ぎょっとしたようにアテラとガゼルが目を見開いていた。
「何だその反応は」
「いや、いつもながら、早すぎるっつーか……」
「転移してきて直ぐだってのに、何で現れられんだよテメェは」
「貴様らに答える理由はない」
ガゼルとアテラの言葉を切り捨てた閻皇は、指示を仰ぐようにフードの下から海斗を見据える。
「手段は問いません。得られるだけの情報を」
「ひっ、は、話します! 何もしなくたって、ぜ、全部、全部、話すから、だから、お願い……!」
海斗が閻皇に何を依頼しているのか理解した飛鳥がガゼルの腕を振り払い、怯えたように後ずさる。
元とはいえ光姫の名を持ち、多少なりとも異名持ち達の活動を知っている飛鳥だ。
詳しい内容は知らずとも、これから自分がどんな目に遭うか想像できたのだろう。
だが、顔を青くし、体を震わせる彼女を助けてくれる存在はこの場にはいない。
後は閻皇に一任したとばかりに、海斗は飛鳥へと視線をやることすらなく。
ガゼルとアテラはそれぞれの感情を乗せて飛鳥を睨み、一瞥するだけで動かず。
普段は音もなく行動する閻皇は、わざと足音を立てて飛鳥へと近付いた。
「――――!!」
煽られた恐怖心からか、魔術を使うことすら忘れた飛鳥は声にならない悲鳴を上げると共に、閻皇から逃げようと走り出す。
だが執務室の扉に辿り着くどころか数歩と進まぬうちに、彼女の影から伸びた黒い手に足首を掴まれ、勢いよく倒れ込んだ。
「いや、いやああっ!」
影に足を掴まれたまま、それでももがき、逃げようとする飛鳥の襟首を閻皇が掴み、無理やり立ち上がらせる。
「3日後に」
報告日を端的に告げると、暴れる飛鳥の抵抗をものともせず、閻皇は彼女を連れてどこかへと姿を消した。
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