第三章

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  カツカツとわざと足音を立てて海斗が飛鳥に近付く。 「何故このような処分を受けることになったのか、本当に理解出来ませんか?」 圧倒的なまでの威圧感を放つ海斗が纏うのは普段の穏やかな空気では無く、苛烈なまでの覇気。 それは全てを包み込むように部屋中を満たし、対象にされていない筈の他の者達でさえその空気に、その覇気に、飲まれた。 「わ、分かんないわよ…」 「簡潔に申してしまいますと、貴女は異名を持つのには相応しくないのですよ」 また一歩、海斗が飛鳥に近付く。 「貴女は名誉に溺れ、役目を果たすことをなさらなくなりました。会議への遅刻、及び欠席はこれで何度目になるか、覚えていらっしゃいますか?」 「そ、そんなの…雷皇とか森皇だって遅刻するじゃない!!」 「キミと僕達を一緒にしないでくれる?吐き気がするんだけど」 飛鳥の直ぐ後ろから不機嫌そうな雷皇の声が聞こえてくる。 相変わらずナイフは飛鳥の首につきつけられていて、彼が閻皇のように怒れば一瞬にして赤い噴水が現れるだろう。 「彼等は貴女とは違い、きちんとした理由があっての遅刻です。事前にこちらにも連絡を下さりますし。ですが、貴女は全て無断。今までは大目に見てきましたが、何かがあってからでは遅いですしね」 海斗の左手が床と水平になるように持ち上がる。 その掌はもちろん、飛鳥へと向いている。 「雷皇、離れて下さいますか」 「御意」 名残惜し気も無く雷皇がナイフをしまい、自身の席へと戻る。 命を脅かすナイフが無くなったというのに、飛鳥の体は震えている。 「御心配無く。貴女の命を奪うつもりは御座いませんから」 妖しく、どこか嘲笑うかのように口元が弧を描いた直後、海斗の掌から突風が吹き荒れた。 飛鳥は思わず腕で顔を覆おうとするが、森皇の魔術で拘束されているために、ただ目を瞑るしか出来なかった。 飛鳥にだけ吹き荒れる突風は、不思議なことに段々と彼女の纏う白いローブを消し去って行く。 切っているわけでは無く、文字通り消し去っているのだ。  
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