言えない

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『でねー、和樹がさぁ、いきなりぎゅーってしてくれて~、あたしの不安はなくなったの!! もぉー大好き!!』 今、俺の目の前で 笑顔でノロケ話をしているのは 幼なじみの亜美 『はいはい、よかったねぇ』 と軽く流す すると 『ちゃんと聞いてんの~?』 とぷぅーっと頬を膨らまして怒る それを見て (かわいいな) と思いつつ 『聞いてるよ』 と返事をしてやる 『いつも聞いてるって言っといて和也は聞いてないじゃん』 と言いながら亜美は俺の顔から窓の外へと 目線を移した 外では亜美の彼氏が部活をしている 確かサッカー部だったはずだ 『ごめんって』 亜美の横顔にそう謝る 『んー和樹がカッコいいから許す』 そういって 俺の事など見ずにニコリと笑った 俺らは幼なじみ いつでも一緒にいた 一番近くにいた いつも一緒に帰って 色んな所にも行った こいつが隣にいることが 当たり前だった でも今は こいつの隣には 俺じゃなく 違う男がいる…… そして俺の心には ぽっかりと穴が空いた 亜美にしか埋められない穴だ 『そろそろ和樹終わるから行くね』 そう言って亜美は立ち上がった (いくなよ) そう言って本当は引き止めたいけど 『おー』 と返事をした 『また明日ね』 亜美は鞄を持って歩き出した 『じゃーな』 俺は亜美の背中に手をヒラヒラと振った 本当は今すぐ引き止めて 『好きだ』と言いたい でもそんな事をしたら きっとあいつは困った顔をする 俺が見たいのはあいつの笑顔だから この言葉は言えない 亜美の背中を見送った後 俺は (情けねぇ……) と思い自嘲ぎみにハハッと笑った お願いだから 一番じゃなくていいから 俺の傍にいて そして いつでもその笑顔をみせて その笑顔をみせてくれれば 俺は充分だから…… End
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