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天使さんはしばらく無言でわたしを見つめていた。
一瞬だけ悲しそうな顔をして、すぐ鋭いまなざしに変わる。
おもむろに掲げられた彼の右手には、ナイフのような……小刀が握られていた。
「――――いいだろう。そこまで意志を突き通すなら、もう何も言わん」
逆手に持ち替えたそれを構えながら、彼は最後にもう一度聞いてくる。
「後悔、しないな?」
「はい」
頷いて、天使さんを見上げる。
月光を背に受けた彼は、さっきと同じ、翼の生えた天使に見えた。
「最後に、聞いていいですか?」
「…………好きにしろ」
短いけれど返ってきた言葉に安堵して、問いを口にする。
「天使さんは、わたしを心配してくれた?」
初めの時とは打って変わったはっきりした声。
彼はわずかに、笑った気がした。
「当たり前だろう」
――――ああ。
ありがとう、天使さん。
あなたに会えて良かった。
瞳を閉じて、暗闇に包まれる世界。
冷たく軋む体で、ぬるい感覚に溺れ、胸から溢れる熱を感じる。
あとはただ、
ゆっくり……眠ろう。
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