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「どうして天使さんは、お父さんとお母さんの名前を知ってるの?」
知っていることは、わかっていた。
わかっていたけれど、わからなかった。
天使さんは静かにわたしから腕を離して、わたしを見つめる。
その顔は、悲しそうだった。
「あの時、助けに行った。でも間に合わなかった。……おまえも探したが、見つからなかった」
あの時。
わたしは隠れてるようにお母さんに言われて。
…………でも言いつけを守らずに抜け出してしまった。
お母さんとお父さんを探しにいって、それで。
「わたし、お母さんと約束したんだ」
忘れていた記憶を、忘れようとしていた記憶を思い出す。
一つずつ、ゆっくりと。
「生きるって約束して、だからわたし、生きなきゃいけなくて、死んじゃだめだって思って」
体から流れる鮮血が、地に広がっていく様子を朦朧と見つめながら。
「傷を治さなきゃ、傷を治さなきゃ。生きなきゃいけない、死んじゃだめ、死にたくない……生きたい。絶対死にたくない」
ずっと思って、ずっと願って、それで。
「わたし――――生きてる?」
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