気付いたときにはもう遅い?

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 衣替えが終わり生徒の制服の色が黒から白に変わった六月初旬。  暁が里玖に告白され強引に付き合う羽目になったあの日から一ヶ月が過ぎた。  里玖に口にキスされたのは結局あの日の放課後一回限りで、翌日から今日に至るまでの間、里玖は暁に対して強引に迫るようなことはしてこなかった。 「榊先生、優しいじゃない。手は出してこないんでしょ?」 「違うっ!口にはキスしてこないだけ!ほっぺとか頭とかにはチ、チューしてくるし、セクハラみたいなのは毎日だもんっ」  いつものように花壇横のベンチでお弁当を食べていた暁は、ニコニコと微笑むつぐみに赤い顔で必死に言い掛かる。 「へー、ほっぺにチューされるんだ」  どこか楽しそうに話すつぐみに、暁は更に顔を紅潮させていった。  隠しているはずだった里玖との交際が何故かつぐみにばれていることに気付いたのは二週間程前のことだった。  付き合い始めてからやけに多くなった数学の課題を悪戦苦闘しながらもやり遂げた暁が、教室から職員室に移動する際にたまたま花壇に水を撒いているつぐみを見かけて声を掛けたのがきっかけだった。
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