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あたしは、目の前にいるリョウは話し始めた。
あの、雨の夜のことを。
人に話すのははじめてだった。
あの日、あたしが我儘言って、凌を呼んだりしたから。
雨が降ってるのに遅くまで引きとめたりしたから。
よりによって、会ったばかりの、素性の知れない男に話すことになるとは思わなかった。
『リョウ』は、黙ってあたしの話を聞いてくれた。
一言、また一言と言葉を紡いでいくうちに、ひとつ、またひとつ、悲しみが浮き出てきた。
目をあけると、部屋が暖かなオレンジに包まれていた。
夕方だ。
あたしは眠っていたみたいだ。
一体どのくらい眠っていたんだろう。
こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりだ。
『リョウ』の顔が現われた。
「おはよう。準備できたら送るよ。」
今度はわかった。彼は、優しい瞳をしている。
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