第一章 日常

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
ここは名もない小さな島。他の土地に住む人はどうかわからないが、この島に住む人々は島に名前をつけることに興味がないらしく、『この島』でいいと考えていた。(『ある意味、それが名前だろ!』というツッコミは甘んじて受けよう。) 小さいとは言っても、この島にもいくつかの村はある。『この村』でも良いが、それぞれを区別するため、村には名前がつけられている。その一つ、島の最南端に位置する村からこの物語は始まる。 「…ファ~あ…眠い…」 村で一番大きな木の枝の上で欠伸をしているこの青年、名前を『ソウ』と言う。極々平凡な青年だ。 「ったく…暇で仕方ないな…いてっ!」 ソウの頭に木の枝が小気味の良い音を立てて当たった。 「だったら、少し手伝えよ!」 木の下で同い年位の青年が叫んだ。 「いってえなあ…ん?カイルか…それはお前の仕事だろうが!」 しきりに頭をさすり、ソウは呟きながら飛び降りた。 「薪割りだろ?ひとりで出来るじゃねえかよ。」 「…この量を見ても、そう思うか?」 カイルが指差した方を見てソウが肩をすくめた。 「何も無いじゃん。…ってこんな所に壁なんてあったっけか?」 そう言いながら、ソウは壁に近づいてみた。異様に大きな壁である。…が、近くでマジマジと見て、ある事に気付く。 「な…まさか、これ全部か?」 やれやれと言った風にカイルがため息をつく。 「その通り。しかも今日中だとさ。」 「相変わらず厳しいなあ、お前の親父さんは。」 カイルの父親は昔気質の男で、しかもどこかズレている。この前も、 『この島を泳いで一周してみせる!』 と豪語したから、さぞ泳げるのかと思いきや、結局、足がつく浅いところを歩いただけだった。(それでも充分すごいことだが。) 無謀な挑戦の理由を尋ねたら、 『ん?…島の大きさを図るためだ。』 …そんなわけあるか!カイルの気苦労は計り知れない。 「おい!小僧ども、やってるか!?」 「噂をすればなんとやら、だ。」 カイルは呆れ顔で呟いた。ソウも同じ顔をしていたらしく、 「な~んだ、お前ら。しけた面しやがって…しかも全然進んでいないじゃないか!」 壁のように積み上がった木材を力一杯叩く。 …ガラガラガラ…ドドドドドド!!! …当然の結果だ。ソウとカイルは顔を見合わせて、やれやれと肩を落とした。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!