2人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
ここは名もない小さな島。他の土地に住む人はどうかわからないが、この島に住む人々は島に名前をつけることに興味がないらしく、『この島』でいいと考えていた。(『ある意味、それが名前だろ!』というツッコミは甘んじて受けよう。)
小さいとは言っても、この島にもいくつかの村はある。『この村』でも良いが、それぞれを区別するため、村には名前がつけられている。その一つ、島の最南端に位置する村からこの物語は始まる。
「…ファ~あ…眠い…」
村で一番大きな木の枝の上で欠伸をしているこの青年、名前を『ソウ』と言う。極々平凡な青年だ。
「ったく…暇で仕方ないな…いてっ!」
ソウの頭に木の枝が小気味の良い音を立てて当たった。
「だったら、少し手伝えよ!」
木の下で同い年位の青年が叫んだ。
「いってえなあ…ん?カイルか…それはお前の仕事だろうが!」
しきりに頭をさすり、ソウは呟きながら飛び降りた。
「薪割りだろ?ひとりで出来るじゃねえかよ。」
「…この量を見ても、そう思うか?」
カイルが指差した方を見てソウが肩をすくめた。
「何も無いじゃん。…ってこんな所に壁なんてあったっけか?」
そう言いながら、ソウは壁に近づいてみた。異様に大きな壁である。…が、近くでマジマジと見て、ある事に気付く。
「な…まさか、これ全部か?」
やれやれと言った風にカイルがため息をつく。
「その通り。しかも今日中だとさ。」
「相変わらず厳しいなあ、お前の親父さんは。」
カイルの父親は昔気質の男で、しかもどこかズレている。この前も、
『この島を泳いで一周してみせる!』
と豪語したから、さぞ泳げるのかと思いきや、結局、足がつく浅いところを歩いただけだった。(それでも充分すごいことだが。)
無謀な挑戦の理由を尋ねたら、
『ん?…島の大きさを図るためだ。』
…そんなわけあるか!カイルの気苦労は計り知れない。
「おい!小僧ども、やってるか!?」
「噂をすればなんとやら、だ。」
カイルは呆れ顔で呟いた。ソウも同じ顔をしていたらしく、
「な~んだ、お前ら。しけた面しやがって…しかも全然進んでいないじゃないか!」
壁のように積み上がった木材を力一杯叩く。
…ガラガラガラ…ドドドドドド!!!
…当然の結果だ。ソウとカイルは顔を見合わせて、やれやれと肩を落とした。
最初のコメントを投稿しよう!