part02†泡沫

15/24
前へ
/26ページ
次へ
千鶴が歌い終わって、俺はハッとした。 思わず千鶴の美声に陶酔してしまっていた。 約五分の間、俺は現実から確実に逃げてたけど ─────。 逃げることすら、この歌声は許してくれそうな気がした。 「千鶴、歌上手いんだな…」 「それほどでもないですよ。俺なんてまだまだ音痴な方です」 「アホ言え。見ろ」 画面をビシィッと指差した。 画面には99と表示されている。 もちろん、さっきの千鶴の歌の点数だ。 これでどこが音痴って言うんだよ!! しかも、これ精密判定の機械だぞ? それで99なんて高得点を叩きだせるなんて、俺は驚きだがな。 「これはたまたまですよ。選曲が良かっただけですよ。俺の実力じゃありません」 「千鶴の実力じゃなかったら、あの点数は何?」 「機械に聞いてくださいよ。俺が機械をいじくったわけでもないですし、何もせずに歌わされた結果がこれなんですから」 自慢気ではないけど、フッと鼻で笑った。 ───── ムカつくな。 幟鶴は幟鶴で瀧澤葵と話してるし。 俺が苦手な奴ら同士、波長が合うのか? 幟鶴は苦手じゃないけど、ある種苦手だな。 「くお、葵ちゃんが隣譲ってくれって言ってきたんだけど……良い?」 「はあ!!?断る!」 「葵ちゃん……ずっとこっち見てるよ?幟鶴も一緒に」 「うわぁ………ウゼェ…」 瀧澤葵と幟鶴はどこか恨めしそうに俺を見ていた。 ………マジウゼェよ…。 大体、俺はお前が嫌いなんだ。 そんな奴に隣譲るわけねぇだろ。 ない頭で考えやがれ!! この能無しっ!!
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加