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千鶴が歌い終わって、俺はハッとした。
思わず千鶴の美声に陶酔してしまっていた。
約五分の間、俺は現実から確実に逃げてたけど ─────。
逃げることすら、この歌声は許してくれそうな気がした。
「千鶴、歌上手いんだな…」
「それほどでもないですよ。俺なんてまだまだ音痴な方です」
「アホ言え。見ろ」
画面をビシィッと指差した。
画面には99と表示されている。
もちろん、さっきの千鶴の歌の点数だ。
これでどこが音痴って言うんだよ!!
しかも、これ精密判定の機械だぞ?
それで99なんて高得点を叩きだせるなんて、俺は驚きだがな。
「これはたまたまですよ。選曲が良かっただけですよ。俺の実力じゃありません」
「千鶴の実力じゃなかったら、あの点数は何?」
「機械に聞いてくださいよ。俺が機械をいじくったわけでもないですし、何もせずに歌わされた結果がこれなんですから」
自慢気ではないけど、フッと鼻で笑った。
───── ムカつくな。
幟鶴は幟鶴で瀧澤葵と話してるし。
俺が苦手な奴ら同士、波長が合うのか?
幟鶴は苦手じゃないけど、ある種苦手だな。
「くお、葵ちゃんが隣譲ってくれって言ってきたんだけど……良い?」
「はあ!!?断る!」
「葵ちゃん……ずっとこっち見てるよ?幟鶴も一緒に」
「うわぁ………ウゼェ…」
瀧澤葵と幟鶴はどこか恨めしそうに俺を見ていた。
………マジウゼェよ…。
大体、俺はお前が嫌いなんだ。
そんな奴に隣譲るわけねぇだろ。
ない頭で考えやがれ!!
この能無しっ!!
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