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「頼むから上げてくれよ……」
「勘弁してやってくれるか?」
「………分かったよ…」
分かったしか言えねぇよ……。
初めから、謝られたくてここまで走って逃げてきたわけじゃねぇんだから。
それに結鶴は大切な奴だから。
確かに俺にしてみれば、結鶴は俺を悪い意味で利用した。
咎めたいって気持ちがないわけじゃない。
──── でも、結鶴はこんなこと二度としねぇって思ってる。
だから……咎めたりしない。
「ありがとう。ほら」
「なっ……………」
瀧澤葵はスーツの上着を脱ぎ、俺に被せた。
……こんな情けかけるみてぇなこと、してんじゃねぇよ。
そりゃ夜は冷え込むけど…こんなのいらねぇよ。
瀧澤葵に上着を突っ返した。
「いらない。返す。俺なら良い」
「姫城は厳しいな」
そう言って自嘲気味に笑った。
………俺、なんかしたか?
上着突っ返しただけじゃねぇか。
本当に上着なんていらなかったし、何より恩着せがましいことされたくねぇし。
見返り求められることほど、嫌なことはねぇんだ。
だから突っ返したんだよ。
「厳しいとかじゃねぇよ。俺は千鶴達以外に優しくされたくねぇんだよ。特に瀧澤葵、お前からはな」
「俺の何が気に食わないんだ?」
「とにかく嫌いだ。近寄るな」
「理由になってないな。無理に好きになれとは言わない。ただ、露骨に避けるのはやめてほしい。仕事だけでの付き合いで、今は構わない」
───── 意味分かんねぇ。
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