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「あのなぁ、いい加減諦めろよ。上着突っ返されて、嫌いだって堂々と公言されてまで俺にこだわる理由があるのかよ」
「あるな」
「なんだよ」
聞かなきゃ良かったなんて、もう遅すぎた。
「姫城が好きだ」
「……冗談ならやめろ。今すぐ撤回してくれ。俺にそういう趣味はない。それ以前に俺はお前が嫌いだって言ったろ」
こうでも言わないと平常心を保てそうになかった。
女に好きだ好きだ言われることは、仕事が仕事だから数えきれないくらいある。
それは否定しない。
だけど、男に言われたことは一度もねぇよ?
俺が好きだと言ったって、それに恋愛というものを合わせて言うことはない。
それは、誰もが知ってることだ。
───── 悩みを増やしてくれるな。
俺はお前に真剣になるような奴じゃない。
何より噂の回りはただでさえ早いんだ。
お前が今言ったことを万が一俺が話したとしてみろ。
瞬く間に広がっていく。
ライバル店もそれを良いことに稼ぎ始めるだろうし。
そんなリスクを背負ってまで、お前に真剣になられたくないし、なりたくもないんだ。
「今はそれで構わない。まずは、仕事上の付き合いから始めてくれないか?」
「断る。俺は千鶴や他の奴らとワイワイ騒いでたいんだ。お前に構う暇なんてねぇんだよ」
───── もう帰ろう。
そう思い、石段から立ち上がろうとすると身体が一気に右に傾いた。
大体の予想はついてんだ。
ただそれを認めたくはないだけで。
「そこまでして、姫城は俺を全力で拒絶して……好きだと知った上でそういう態度をとられるのは、さすがに傷つくんだがな」
耳元で囁かれ、鳥肌が立った。
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