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腕時計へ視線を落とすと、既に4時を回っていた。
やはり、何かあったのだ。
痩せ細った木の幹に凭れ掛かり、アタッシュケースを持つ手に力を入れた。
このままでは、何の収穫も得られずに帰国となる。しかし、帰りを待つ人達の為にも何かしらの手土産は手に入れたい。
情報と言う名の手土産を。
車が巻き上げる砂煙に咳き込み、クラクションの騒音で顔をひきつらせる。
こんな国で普通に暮らしている現地人の気持ちが、塚本には理解出来なかった。
待ち合わせ場所である酒場の中には、夕暮れ前にも関わらず沢山の群集があった。
異国の人間が店内に入れば、忽ち柄の悪そうな男達に囲まれてしまうだろう。
かと言って、店の前が安全だという保証も無い。
「早く、早く来い」
塚本は真後ろにある酒場の窓ガラスを頻りに見ながら呟く。店内の男達に不穏な動きがあれば、直ぐに逃げる為だ。
何をされても責任を取ったり守ってくれる人間は居ない。
この国へ来る前に覚えたばかりの護身術は、果たして役に立つだろうか。
夕焼けに変わろうとする太陽に目を細め、塚本はゆっくりと天を仰いだ。
ひつじ雲と呼ばれる高積雲が見え、不安に拍車を掛ける。
白く大きいそれは丸みがあり、まるで人魂の様だった。
そこへ向けて息を吐き出せば吹き飛んでしまう気すらした。
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