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このまま日本へ戻りたくはない。何としても、あの猟奇的な行動の謎を解かなければ。
空に奪われそうだった気持ちを引き締めようとした時、
「塚本さん、ですよね」
異国の地で久し振りに聞いた日本語が、塚本の視線を戻す。
酒場の横にある路地から姿を現したのは、待ち詫びた人。
「そうです。桃井さんですね」
面識が無かった為、一応確認した。電話の声から想像していた姿とは程遠く、がっしりとした体つきをしている。
周囲を気にする様な素振りを見せながら近付いて来る桃井に、塚本は息を呑んだ。
「まさか、資料を持ち出すところを誰かに見られたんですか」
待ち合わせに遅れ、周囲を気にしている。この2つを考えれば、そう尋ねざるを得ない。
塚本の前で立ち止まった桃井は、スーツのネクタイを緩めながらゆっくりと頷いた。
「ここは不味いです、詳しい話は別の場所でしましょう」
酒場の方へ首を向けた桃井は、危機感を全面に押し出した様な声色で提案する。
反対する理由も無く、塚本はそれに同意した。
歩きながら飛行機の時間を伝えると、桃井は近くにある黄土色の民家を指差した。
「あそこは先週から空き家なので、少し借ります。念の為に、裏口から入りましょう」
小声で言い、道路に面した正面玄関から迂回して裏口へ。
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