プロローグ

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 1分ほど続いた沈黙は桃井の咳払いで破られる。  背を向けたまま跪き、塚本と同型のアタッシュケースを開けて分厚い紙の束を取り出した。 「すみません、急いでいるのに関係の無い話をしてしまって」  上擦った声が胸を締め付け、居たたまれない気持ちになる。  大切な人を失う事がどんなに辛いかを知っているせいだろうか、同情せずにはいられない。  力無く返事をし、塚本もアタッシュケースを開ける。大量の資料を渡されると予想していた為、中は空にしてあった。 「これが大使館にあった資料、こっちが過去の新聞の切り抜きをファイリングした物です。お役に立てれば良いのですが」  立ち上がって振り返り、それらを差し出す桃井。決して晴れやかとは言えない表情だったが、吹っ切れた様には見える。  両手でしっかりと受け取り、塚本は深々と頭を下げた。  資料を無断で持ち出す重罪を犯させてしまったのだ、頼まれた相手が日本人だと言う理由だけで。感謝してもしきれない。  頭を上げて資料をパラパラと捲っている時、塚本は意味深な文字を見つけた。  〈吸血鬼伝説に新たな展開〉、そう英語で表記されている。  長方形の紙にびっしりと書かれた内容は、塚本の眉間を山脈の様に盛り上がらせた。  ここに記載された内容が事実ならば、一刻も早く帰国しなければいけない。  そして、国民全員に未曾有の危機を知らせる必要がある。  
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