プロローグ

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「それにしても、何故こんな事態になったんですか」  事の発端を知らない桃井は、恐る恐るといった感じで聞く。  単純に、資料を貸して欲しいとしか伝えていなかったのだ。  資料の内容から見当は付いている様だが、やはり気になるのだろう。いや、無理もない。  吸血鬼ドラキュラに関する資料を貸して欲しいなんて申し出をされたのだから。  飛行機に乗る時間が迫っているが、命の恩人とも呼べる桃井にだけは話しても良いだろう。  日本の病院で起こっている、奇怪な事件について。  塚本はアタッシュケースの中に資料を入れ、鼻から息をゆっくりと吐き出した。 「つい最近の話です。私の勤めている病院の看護師が、忽然と姿を消しました。勤務態度は真面目で、何も言わずに辞めたりしない人間です。それが……」  続きを渋った訳では無い。地下の霊安室で見た光景を思い出し、気分が悪くなったのだ。 「それがいきなり、ですか?」  流石は大使館の職務を任されている人間だ。  桃井は日本で何が起こっているのか、薄々気付いていたのだろう。そして、助けを求められた理由についても。  汚物がせり上がりそうになるのを堪え、塚本は桃井の不安げな眼差しに双眸を向けた。 「彼女が失踪してから1週間後に、漸く院内で発見しました」  関係者以外に初めて話す為、一瞬躊躇う塚本だったが、 「霊安室で父親の肉を旨そうに喰らう、血塗れの彼女の姿を」  意を決して事実を話した。  
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