プロローグ

15/20
前へ
/43ページ
次へ
〈4〉  黒いスーツを身に纏い、宅間亮輔は街中で声を掛けていた。手当たり次第と言える程に。  退院してから3日と経っていないが、安静にする気は無かった。ブランクを取り戻すように次から次へと声を掛ける。  終電が迫る時間でも、ネオンが眩い光を放つ渋谷は人で溢れかえっている。  その中でも、金を持っていそうな成人女性がターゲットだ。  言葉巧みに女性を誘い、自分の店に金を落として貰う。ホストの下っ端が行う仕事だ。  病み上がりの為、自ら進んで客引きをやると申し出た。  長身で痩せ型、真ん中分けをした肩を隠す程の髪、黒いワイシャツにスーツと、典型的なホストの出で立ち。  それを知ってか、家路を急ぐ女性達は亮輔を避けるように足早で通り過ぎる。 「くそ、全然引っかかんねえ」  電信柱に凭れ掛かり、溜め息と一緒に吐き出した。  慣れているとは言え、連戦連敗だと気分が悪い。  長い黒髪を掻き上げ、アスファルトに唾を吐いた。  そろそろ店に戻る時間だが、収穫無しでは情けない。  新人ホストなら次回頑張りますで終わりだが、自分はそうもいかないだろう。  マネージャーから寄せられる無言のプレッシャーには耐えられても、プライドが許さない。  ましてや、療養の為に店を休んだ償いとして自ら客引きをやると言ったのだ。何としてでも客を掴まえる。  亮輔は自分の頬を軽く叩き、気合いを入れ直した。   
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

258人が本棚に入れています
本棚に追加