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〈4〉
黒いスーツを身に纏い、宅間亮輔は街中で声を掛けていた。手当たり次第と言える程に。
退院してから3日と経っていないが、安静にする気は無かった。ブランクを取り戻すように次から次へと声を掛ける。
終電が迫る時間でも、ネオンが眩い光を放つ渋谷は人で溢れかえっている。
その中でも、金を持っていそうな成人女性がターゲットだ。
言葉巧みに女性を誘い、自分の店に金を落として貰う。ホストの下っ端が行う仕事だ。
病み上がりの為、自ら進んで客引きをやると申し出た。
長身で痩せ型、真ん中分けをした肩を隠す程の髪、黒いワイシャツにスーツと、典型的なホストの出で立ち。
それを知ってか、家路を急ぐ女性達は亮輔を避けるように足早で通り過ぎる。
「くそ、全然引っかかんねえ」
電信柱に凭れ掛かり、溜め息と一緒に吐き出した。
慣れているとは言え、連戦連敗だと気分が悪い。
長い黒髪を掻き上げ、アスファルトに唾を吐いた。
そろそろ店に戻る時間だが、収穫無しでは情けない。
新人ホストなら次回頑張りますで終わりだが、自分はそうもいかないだろう。
マネージャーから寄せられる無言のプレッシャーには耐えられても、プライドが許さない。
ましてや、療養の為に店を休んだ償いとして自ら客引きをやると言ったのだ。何としてでも客を掴まえる。
亮輔は自分の頬を軽く叩き、気合いを入れ直した。
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