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千紗の両肩を軽く掴んだ亮輔は、前方へそっと押した。
「亮輔、さん?」
「ごめん、今お客さんと一緒なんだ。今度連絡するから」
怪訝な顔を見せる千紗に対して言い、乗せていた手を離す。
大事な客としつこい小娘、どちらを優先すべきかは明白だ。
千紗はお淑やかで、その上気が弱い。何度か店で接客していた為、それは知っている。
こちらから先手を打って断れば、それ以上付きまとうような真似はしないだろう。
亮輔の読み通り、千紗は俯いて肩をがっくり落としていた。
「あの、私……」
しどろもどろで話されても、心は痛まない。今は目先の金。
「お待たせしてすいません」
女性に言い、階段を下りようと背を向けた瞬間、
「私、亮輔さんが好きです!」
周辺を歩いていた人も足を止める程の大声で、突然の告白。
半身を捻ると、耳たぶを赤く染める千紗の姿があった。
慌てて駆け寄り、再び肩を掴んだ。身長差もあり、俯いているその表情は伺えない。
「千紗ちゃんっ、困るよこんな場所で。今度必ず連絡するからさ、今日はもう……」
「嫌です。付き合ってくれるって言うまで、ここに居ます」
淡々と話され、軽い恐怖すら覚える。普段の感じからは全く想像も出来ない言動だ。
今度は亮輔がしどろもどろで千紗を説得し始める。
と、沈黙を守っていた女性が短く息を吐いた。笑いながら。
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