プロローグ

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〈1〉  ビルの谷間にある日陰へ逃げ込み、梅津直哉は息を吐いた。  怪我で夏休みを棒に振り、宿題が山積みの状態だ。  目元より低い位置まで伸びた前髪が鬱陶しく感じ、手で掻き分けた。額に浮かぶ汗が、真夏日だという事を物語る。  図書館へ向かう道すがらで、数え切れない程の人と顔を合わせ、すれ違った。  人混みが苦手な梅津にとっては、拷問とも呼べる数だ。  骨折していた右足に力を入れても、痛みは感じない。  梅津は軽く屈伸をしてから、駅に向かって歩き始めた。  気分転換になると考えて訪れた図書館だったが、やはり人が多いと気が散る。  開館と同時に入り、2時間もしない内にそこを出ていた。  今日は土曜。明後日からは、刺激の無い高校生活が始まる。  溜め息を撒き散らしながら、燦然と輝くビル群を歩いた。  大通りに面した公園内には、スーツの上着を脱いでベンチに腰掛けるサラリーマンや、噴水で水浴びをする幼子と親の微笑ましい光景があった。  誰もが与えられた命の中で、思い思いの時を過ごしている。  それに対し、自分はどうだ。学校へ行けば時間割と上辺だけの友人に縛られ、家では戸籍で繋がっている親と寝食を共にするだけの日々。  自問自答するのも馬鹿らしく思え、梅津は自嘲した。  
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