プロローグ

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「私、お邪魔みたいね。お店にはまた今度寄らせて頂きます。いつになるか分からないけど」  よそよそしい感じで話して、去り際に冷たく言い放つ。  人混みに消えて行く女の背中を、亮輔は呆然と眺めていた。  暫く放心状態に陥る。せっかくの獲物を横取りされた気分。 「勘弁してくれよ……」  怒りを通り越し、只呆れた。  何を思いあんな事を口走ったのだろう。見当もつかない。  不自然さすら感じる千紗を、振り向きざまに睨んだ。  視線は一瞬だけ合い、直ぐに逸らされた。千紗の上半身は、90度に折れている。 「ごめんなさい、これしか方法を思い付かなくて……」  大事な客を逃がしたのだ、謝って済む問題ではない。  そうは思っても、何故か怒る気にはなれなかった。  もう良いと声を掛け、頭を上げさせた。すると、予想もしていなかった顔がそこに。  千紗の目尻からは真珠のような涙が溢れ、次から次へと頬を滑り落ちていた。 「いやっ、別に怒ってないから泣かないでよ。ねっ?」  流石に泣かれるとは思っていなかった。軽く睨んだつもりだったのだが、どうやら本気で怒っていると感じたらしい。  片手で口許を抑えて嗚咽を堪えている千紗の両肩に、そっと手を乗せる。  この状況をどう打開しようか頭を悩ませる。そんな亮輔に、 「お姉ちゃんが、お姉ちゃんがお父さんを……食べちゃった」  千紗は、女優顔負けの演技で亮輔を困惑させた。  
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