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狭い路地を抜けると、高層ビルに挟まれた小さな交番が。
喩えるなら、両親の間に入り手を繋ぐ子供のような感じか。
梅津は彼女が追い掛けてきていない事を再度確認し、重たい足取りで交番の扉を開けた。
警察の世話になるのはこれで2度目。いや、前回は世話をしたと言った方が正しいか。
警察官3人の視線を浴びつつ、忌まわしい記憶を蘇らせる。
「すいません、助けて下さい。追われているんです」
最も年輩だと思われる警官が話し出そうとする前に、梅津は保護して欲しい旨を伝えた。
顔を見合わせる3人。それもその筈、誰かに追われているという台詞は映画やドラマ以外だと違和感がある。
息を乱して話す梅津に、年輩の警官は机の後ろにある棚からタオルを取り出し、手渡した。
「はいはい、追われてるのね。まずこれで汗拭いて、落ち着いてから詳しく話聞かせて」
明らかに信用していない。口調も椅子に腰を掛ける様子も、面倒だと言わんばかりだ。
が、梅津は怒ろうとしない。それが自然な反応だと思った。
制服の胸ポケットにあるネームプレートに目をやると、斎木と書かれていた。
どうすれば斎木に信用してもらえるのか。自分の力だけでは難しいかも知れない。
広さ15畳ほどの室内に、梅津の味方は誰もいなかった。
ならば、味方になってもらおう。父親の名を使って。
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