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手渡された真新しいタオルで首筋と顔を拭き、梅津は目つき鋭く切り出した。
「あの、失礼ですが神奈川県警の本部長はご存知ですか?」
「ん、ああ知っているよ。凶悪犯罪が起きた時なんかは神奈川の方と共同で捜査したりもするからね。それがどうかした?」
斎木はにんまりと笑って卓上の麦茶に手を伸ばした。
交番勤務の巡査長が知っているのは、精々顔と名前だけだ。が、話すしかない。
「梅津賢三、僕の父です。一応神奈川県警の本部長という役職に就いているんですが、父に連絡を取ったりは出来ますか?」
瞬間、斎木の皺だらけの目尻が吊り上がり、険しくなる。
給湯室から梅津に麦茶を持ってきたのであろう女性警官も、梅津賢三の名を聞いて斎木の後ろでぴたりと足を止めた。
「その話、本当?」
割と高かった声の質を急に落とし、斎木は半信半疑といった感じで訊いてきた。
「嘘をついても僕にメリットはないと思いますが」
対等の立場だと認識させる為に、敢えて上から目線で話す。
切羽詰まった状況を理解させなければ、話が進展しない。
無言のプレッシャーで威圧はしているものの、父に連絡して欲しい訳ではなかった。
仮に連絡したとしても取り次いでもらえないだろうし、話すことなど何もない。
彼女から逃れることを最優先する為、梅津はひたすら真剣な眼差しを斎木に向け続けた。
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