思考と志向の分岐点

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「詳しく聞かせて。誰にどんな理由で追われているのかを」  根負けしたのか、斎木は溜め息の後に訊いてきた。  本部長の息子だと認めてくれたのかは定かでないが、少なくとも追われているという話が冗談ではないと理解したようだ。  資料や調書などが乱雑している机を軽く叩き、斎木は立ち上がって対面式のソファへ腰掛けた。その間にある長方形のガラステーブルが、何とも言えない距離感を生み出している。  女性警官がコースターに続いて麦茶を置き、頭を下げた。  恐らく新人だろう。年齢もさほど変わらないように見えた。  梅津も軽く頭を下げ、神妙な面持ちの斎木と向き合う。 「追われている理由は分かりません。名前も……ただ、追われているのは確かなんです」  彼女の名前は伏せた。危機感が伝わるか多少不安だったが。と言うよりも、現状では伏せざるを得なかった。  目的すらも分からない彼女を警察に引き渡すような真似は、やはり気が引ける。それに病院では何かと世話になった。  流石に彼女も交番の中までは追ってこないだろう。諦めて引き上げてくれるなら、ここに居るのが最良の選択に違いない。  梅津はここを追い出されないと踏んで安心していたのだが、 「あの、それってもしかして」  女性警官のその一言で、状況を劇的に変化させられる。  
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