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斎木と梅津の中間に立つ彼女は、訝しげな表情で指差した。梅津が持っているタオルを。
「もしかして……血?」
瞬間、3人の視線が梅津の持つタオルに集中した。
彼女に飲まされた血が口内に残っていたらしく、汗を拭う際に運悪く付着していたようだ。
「これは違うんですっ、ペットボトルの中に血が入っていて」
言いかけ、口を噤んだ。単に口内が切れたとでも言えば済むものを。これでは彼らに余計な誤解を与えてしまう。
「何でペットボトルの中に血が入っている、どういう事だ?」
弁解しようとしても、既に後の祭りだった。質問した斎木は勿論、他の2人も犯罪者を見るような目で警戒している。
迂闊だった。もう一息で信用してもらえそうだったのに。
自分の浅はかな考えと行動を恥じ、梅津は下唇を噛んだ。
「君、身分証は持っているよね、ちょっと見せてくれないか」
手を前方へ出して言う斎木の態度で、梅津は悟った。もうこの空間に味方はいないのだと。
冷や汗が背中を伝う。引き下がるか、彼女を売り飛ばすか。二者択一を迫られていた。
どちらを選んでも良い結果になるとは限らないだろう。かと言って、このまま黙っているわけにもいかない。
「すいません、今は持っていないんです。家に忘れてきて」
俯いて話す。斎木と目を合わせない為に。熟年の警察官だ、目だけで嘘がばれる。
梅津は自分がかつてない窮地に立たされていると感じた。
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