思考と志向の分岐点

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 この場を上手くやり過ごす。今はそれしか頭にない。  首だけ入り口がある後ろへ。怪しい人影はなかった。  流石に彼女も自宅までは知らないだろう。ここよりも家のほうが安全だし、この重苦しい雰囲気に耐えられる気がしない。 「高校生だよね、学校はどこ? ちょっと連絡を取り」 「すいません、急用を思い出しましたので失礼します」  斎木の問い掛けを半ば無視して言い、機敏に立ち上がった。  3人に背を向け歩き出すと、 「ちょっと待ちなさいっ、話はまだ終わっていない。学校は」 「すいません急いでいるので」  少し錆び付いた扉を開けて、梅津は勢い良く走り出した。  斎木が追い掛けてくるような気はしたものの、振り返らず。  運動が苦手とは言え、斎木ほどの年輩者に追い付かれはしないだろうと高をくくっていた。  色白の肌が太陽光で焼ける。このまま外にいればいずれ溶けてしまいそうだと感じた。  人が多い場所は嫌いなのにも関わらず、敢えて蟻のようなその群れに飛び込んだ。  周りが全て敵に思えてくる。車のエンジン音、人の話し声、信号の点滅、生温い風、青空。全てが気に障る。  何故追われなければならないのだろうか。彼女に恨まれるようなことをした記憶はない。  額には再びうっすらと汗が。思考を巡らせている間にも体力はこの暑さで削られている。  先ずは家に無事帰ることだけを考えよう。梅津はくたびれた全身を引き摺るようにして駅へと歩を進めた。  
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