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信号前にいた署名活動をする集団に捕まってしまい、かなり時間をロスする。無視しようにも、運悪く赤信号だった。
手早く署名をすると丁度信号が青に変わり、梅津は小走りで横断歩道を渡った。
路地を通ったほうが近道なのだが、待ち伏せされているかも知れない。そう考え、人混みで賑わう大通りを進む。
どこから彼女が現れるか分からない。そんな言い知れぬ恐怖と戦いながら駅を目指した。
汗が額に前髪を貼り付かせ、強めの生温い風でも靡かない。入院する前から散髪へ行っていない為、5ヶ月近く伸ばしっぱなしの状態だった。
そろそろ切りに行かないと、教師から無駄な指導を受ける。瞳を遮る前髪を手で掻き分けながら思っていると、
「みーつけた」
同時にティーシャツの裾を掴まれ、梅津は体ではなく心臓を飛び上がらせた。その後、脱力感に襲われる。
見つかってしまった。これだけ人が多い中、しかも警戒していたつもりなのに。運が悪かったと諦めるしかない。
今考えれば、タクシーで帰るなり、方法は幾らでもあった。運が悪いと言うより、自業自得だったのかも知れない。
胸中を後悔と絶望の念で埋め尽くし、ゆっくりと振り返る。そこに居たのは、見知った顔。だったのだが、
「真矢っ、何で!?」
予想もしていなかった人物、同級生である水野真矢の姿。
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