258人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
駅前へ行く為のスクランブル交差点前には、遠目にも分かる程の群集が居る。
それを避けようと、梅津は手前に設けられた歩道橋へ。
この蒸し暑い日に歩道橋を渡る物好きな人間は居ない。
案の定、階段を上りきった通路には人の姿が無かった。
汗みどろで、気持ちが悪い。脱水症状なのだろうか、陽炎が立っている様に視界が揺れる。
意識が朦朧とし始め、梅津は堪らず片膝を付いた。
目を瞬かせ、頭を振る。皺の伸縮と頭部の振動で、額の汗が下顎から地面へ零れ落ちた。
そう言えば、朝に麦茶を飲んでから水分を口にしていない。
それに気付くも、視点の定まらない今の状態では自販機へ走る事すら出来なかった。
今夏も、熱射病で死者が出ている。このまま気絶してしまえば、自分もその仲間入りをするに違いない。
暑さとは無関係の生暖かい汗が、体の内側から滲み出た。
「み、水、飲まないと……」
必死に立ち上がろうとするが、筋肉はその指令に反応せず。
死とはこれほど単純に訪れるものなのか。梅津は唇を噛んでそう思った。
「これ、飲みなよ」
甲高い声と同時に小さな日陰が出来る。地面を遮った物は、ペットボトルに入った液体。
体が欲していたらしく、差し出してくれた相手の顔も見ず、それを口に運んだ。
最初のコメントを投稿しよう!