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目の前で急ブレーキ音を響かせ、それは止まる。
窓ガラスが陽光に反射して中は見えないが、荒い性格であるのは間違い無い。
こんな時間に病院へ向かっているという事は、関係者か。
強張らせた全身の力を抜き、若干の警戒心を抱きながら車の運転者が顔を出すのを待った。
パワーウィンドが一定の速度を保って開き、中の様子を真子に見せる。
姿を現したのは、筆先の様に外側へ撥ねた黒髪が寝癖に見える、だらしない感じの若い男性だった。しかも、寝惚け眼だ。
男は開ききっていない双眸を手の甲で擦り、真子の顔をまじまじと見つめている。
目を逸らしても、その舐める様な視線は外されない。
「何ですか、あなた」
「見ての通り、人間だよ」
眉間に寄せる皺を一層深くした真子は、頓珍漢な答えを返す男の車から遠ざかった。
「俺が変質者に見えるかい? 鴇田真子さん」
自分の名前を呼ばれた事で、不信感が極限に達する。
加えて、スーツやネクタイ、シャツに至るまでが黒で統一されており、この男は普通では無いと服装が主張していた。
そんな真子の気も知らずに、
「随分早い出勤だね。初日から気合いを入れ過ぎると、その内過労で倒れてしまうよ?」
憎たらしさすら覚える、人を小馬鹿にした様な笑み。
この男は、一体何者なんだ。
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