プロローグ

8/20

258人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
 こんな礼儀も知らない男が、病院の関係者である筈が無い。  だが、知り合いでは無いし、ストーカーだとも思えない。 「1つ忠告しておこう。ここを辞める気が無いなら、早く免許を取った方が良い。低血圧の君が毎朝この坂道を上るのは体に悪い、体力的にも精神的にも」  スーツの内ポケットからシガレットケースを取り出し、男は饒舌で話を進める。  真子が低血圧だと知っているのは、幼少期からの付き合いである数少ない友人と家族だけ。  そう考えると、ストーカーの線が再浮上してきた。 「その目は、俺をストーカーかその類の輩だと疑っているね」  当然でしょ、と目で訴えて、手提げ鞄を握り締めた。  早朝の閑散とした坂道、自分の身を守れるのは自分だけだ。 「まあそれでも構わないけど、後で謝らないでくれよ? 仕事がやり辛くなるからね」  飽くまでも、病院の関係者として接する気らしい。  ジッポの蓋を閉じた後、男は紫煙を吐き出しながら助手席のドアを開けた。  嫌な予感が汗を滲ませる。 「取り敢えず乗りなよ。代車で乗り心地は最悪だけどね」  余りにも堂々とした誘い方。薄気味悪くて寒気がする。 「どうして私があなたの車に乗らなければいけないんですか」  語気を強めて申し出を拒否すると、男は困った表情を見せ、 「どうしてって、俺が院長だからって理由じゃ駄目かい?」  下らない嘘を付いた。  
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

258人が本棚に入れています
本棚に追加