プロローグ

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〈3〉  車が通る度に舞い上がる砂塵は、塚本慎吾を苛立たせた。  更に、約束の3時を過ぎても待ち人が来ないのだ。  空港へ行くまでに要する時間を考慮して、遅くとも5時には会わなければいけない。  切羽詰まったこの状況でじっと人を待つのは、不安と同時に苛立ちを募らせる。  異国の地、ルーマニア。日本の北海道と同緯度に位置しながら、夏場は40度を超える事も間々ある。  首都ブカレストですら道路の整備が行き届いていない状態で、国の未来は想像し難い。  塚本は舗装されていない歩道に立ち、現地人のある男をひたすら待ち続けていた。  東ヨーロッパに位置しているルーマニアは、西はハンガリー、南はブルガリア、北はウクライナと国境が接しており、東には黒海が広がっている。  ドナウ川や文化遺産は有名だが、吸血鬼ドラキュラが15世紀のワラキア公であったヴラド・ツェペシュがモデルとなって世に広まった事は、あまり知られていない。  宗教は正教会の影響が非常に強い国で、人口の大半をそれが占めている。  観光で訪れる人が少ない為、アジア系の顔立ちをした塚本は明らかに浮いていた。  治安も悪く、昼夜問わず警戒が必要。おまけに、公共施設を指すインフラの管理も不十分で、日本人にとって過ごしやすい国ではない。  それでも、塚本は約束の場所で待たなければならなかった。  
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