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一緒にいた男はフラフラと公園を出ていった。
そして、女もこちらに来た。
より一層、鉄の様な香りが増す。
女はやはり、相原千早だった。
「…向井隼人くんだよね?」
「…ああ。」
相原は俺に声を掛ける。
その口元に少し、血が着いていた。
「…初めて見られちゃった。見られないような術式は掛けてあったはずなのにね。」
相原は微笑みながら口元を手で拭った。
相原の口からは、立派な犬歯が覗いていた。
俺はゾッとした。
普段学校で見る相原とは、まるで別人だった。
俺が憧れを抱いていたような校内一の有名人である相原と同一人物だとは、まるで思えない。
「…要するにアレだろ?吸血鬼ってヤツ。…実在するなんて思ってなかったけど。」
俺は虚勢を張って、精一杯動揺を見せないように言った。
俺に取っては、全てが夢の中の出来事のように思えた。
だって、信じられるわけがない。
吸血鬼?そんな物語のような事があるのだろうか?
「まあ、そうね。」
相原は俺の言葉を肯定した。
出来れば否定して欲しかった。
だってどんなに俺が今拳を強く握り締めても痛みはあって、まるで、俺の頭はおかしくなってしまったのかという錯覚に陥る。
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