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まず、我に返ったのは娘のマリィで、「どうしたの?何があったの?」
リマさんの目力がパワーアップした。
「あのボケ、明後日から社内旅行だって!」
「明後日から…?」マリィの瞳がまん丸に開かれる。
明後日―確か、マリィが休暇を取った日だよな。
「あんな大事な日を…!」
リマさんは絶句するなり、大粒の涙をボロボロとこぼし始めてしまい、みんなしてオロオロしているときに、電話が鳴った。
この着信音は…!
はっ!と振り返った俺の目に、受話器をとる母さんの姿。
親父、頼む、下手な事言うんじゃないぞ~。
悲鳴にも似た息子の祈りを、聞き届けたまえー!
「あら、あなた。こんな時間にどうしたの?」
にこやかな雰囲気が、徐々に重くなり始めた。
「…そう。接待もお仕事の一つですものね。じゃあ、お夕食は…そう」
母の背中に炎が立ち上った。
「食べてらっしゃるのね。わかりました」
最後に一言。
「しばらく、朝も昼も夜もどこかで食べてらっしゃることね」
静かに下ろされる受話器。
親父は見事に地雷を踏んだようです。
そこへ俺の携帯の着信音。母はポケットから携帯を取り出し、画面を確認すると鼻で笑って俺にホイと投げて寄越した。
着信者名『親父』
文面『母さん、何か怒ってる?』
地雷を踏んだ上に、体中にダイナマイトを巻きつけてしまったな。
俺は、解答をメールで伝える。
『本日、結婚記念日』
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