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悲しみに浸っていた俺の傍らで、ガザは何か考えていたようだが、いきなり、俺が握っている上着を脱ごうとし始めた。慌てて、身体に抱きつく。
「放せって!」
「放すか!」
男二人で揉めているところに、マリィが寄ってきて。
「何してるんですか?」
揉め事終了。
ガザは爽やかな表情を取り戻し「何でもない」。
俺は笑ってごまかす。
「ごめんなさい。何か、啓さんの方も大変そうなのに…」
「あ、いや」ははは。
「私、父に話をしてきますので、リマママをお願い出来ますか?」
心細そうな彼女の表情に、今一番悲しんでいるのは彼女なんだとようやく思い当たった。
「ああ。リマさんにはここにいてもらうから。安心しろ」
「お願いします」
深々と頭を下げる、律儀な彼女。そして。
「ガザくんのおばさまには今日は遅くなるって伝えておくわね」
固まる、ガザ。
「啓さんのことまで気遣ってくれるなんて、ガザくんって、ほんとに優しい。じゃあ、ちょっと、行ってきます」
マリィ、時空移動。瞬間的に目の前から姿が消えた。
どこをどうやったら、ガザが俺を気遣っている話になる?
もしかして「さっきの揉めてる姿を、誤解された…?」
俺の言葉に、ガザからの返答はない。
ただ、瞳にうっすらと涙が浮かんでいるのが見えて。
黙って彼の肩を叩くしかなかった。
目覚めると、自室の天井が目に映る。
視線を動かし、壁掛け時計で時間を確認。
午前6時少し前。
傍らでうつぶせになって固まっている人物に声を掛ける。
「…生きてるか、ガザ」
いつもとは精彩を欠いた、くぐもった声が答える。
「…何とか」
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