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マリィがあっちに帰って、それから「…昨日のこと、覚えているか?」
ガザがむっくりと身を起こした。紙のように白くなる顔色の実物を、俺は初めて見た。
「昼飯抜きで説教されて」
そう。俺たちは『そこに座りなさい!』と正座させられた挙句、『男なんて!』と説教されて。
「夜、おじさんが来て…」
そう、マリィの父親がやって来て、ようやく俺たちは解放されて。
「その後、玄関のチャイムが鳴って…」
そう。あれは、親父が帰ってきたチャイム。
そして、ガザの瞳が爛々と輝く。
「俺は、何も見ていない。聞いていない」
口元がわなわなと震える。
「何も、見ていないんだ」
それ、現実逃避してるだけだから。
突っ込みたくても突っ込めない状況。何しろ、俺も、そう信じたいんだ。
やがて、壁の時計が六時を示した。
ガザは冷静な声で呟いた。
「仕事に行かなければ」と。
止める間も無く、空間移動。たった一人取り残された俺は、どうすればいいのでしょう?
とりあえず、朝ごはん、食べよう。
起き上がって階下へ行くべく、部屋の扉を開くと、目の前に昨日の女性の幽霊がいた。しかも、土下座している。
状況の把握が出来ず、見つめて突っ立った状態の俺。
女性の幽霊は、非常にすまなそうな表情で、必死に口を動かしている。
『ごめんなさい、ごめんなさい』
『ご迷惑かけて、ごめんなさい』
迷惑って…?
俺、迷惑かけられた?
でも、二度しか会ってないし。
余計訳がわからなくなった俺、結局、立ち尽くすしかない。
そこへ、マリィが階段を上がってきた。
「啓さん、起きていらっしゃったんですね」
「あ、ああ」
「ママとおばさまは寝てらっしゃいます。しばらく起こさない方がいいかも」
同感。
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