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今日は朝からついてない。
期末テストの最終日。
目覚まし時計は止まっていて、朝食抜きで家を出た。
直後に黒猫に目の前を横切られ、迷信なんて信じていない俺だけど、そこから数歩歩いた先で溝にハマっちゃ、笑うに笑えない。
その後も学校到着まで、烏には襲撃されるわ、遣り水はかけられるわ。
今日は大凶か?
「今頃、遣り水なんかする家があるんだ」
朝っぱらから違うところに引っかかった友人は、数学の公式集を片手に変に感心している。
「雄太(ゆうた)、俺への同情は」
「ない」
あっさり。
「いつの間にやら可愛い彼女を作った奴の不幸は、笑えても同情は出来ん」
雄太、君の瞳は真剣だね。友達甲斐の無い奴。
確かに“可愛い彼女”の言葉に反論はしない。大きめの瞳、流れるような黒髪、柔らかな響きの声、彼女=マリィは可愛い笑顔の少女。
ただ一点『死神』という点を除いて。
うちのオオボケ親父が、身重の妻を救う為、死神のところに産まれてくる“息子”に、自分のところに産まれてくる“娘”を、17の誕生日に嫁にやると約束したのだ。
ところが。
自分のところに産まれたのは“息子”。
つまりは俺、前田啓(まえだ・けい)。
それで諦めりゃいいものを、当人には誕生日前日まで内緒にしておくという陰険さ。
陰険…というより、忘れていたんだろう、親父。
おかげで、こっちは訳が解らないまま悩む事となり、訳が解らないまま死神少年に命まで狙われて、全くもって『さあ大変』な状態になり。ただ、世の中とは上手く出来ているようで、いざ会ってみると、相手は可愛い―要は、俺好み―の女の子。まさに『神様、ありがとう』という展開。
結果。
いきなり結婚相手というのは厳しいということで、まずは『お友達からよろしく』というところから始めている。
マリィが『死神』だという事実は、恐ろしく、恐ろし過ぎて笑っちまうが、彼女自身は優しい少女。しかも、かなりの天然で、幼馴染みのイケメン死神少年のあからさまな好意に気づきもしない。おかげで、後発スタートの俺でもゴールに手が届いたのだけれど、彼女に振り回されている感は拭えない。
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