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ちなみに、少年からは当然怨まれている。
怨まれてはいるが、俺自身は彼=ガザが嫌いではない。
確かに、デートの邪魔は一度や二度では済まないし、夜中に目覚めると、鎌を握り締めてベッド脇に立つガザと遭遇したこともあるけどね。
同じ女の子に好意を持った者として、下手すれば立場が変わっていたかもしれないから。
本気で好きなんだ、と解れば解かるほど、不憫な気がしてくる。
だからと言って、譲る気持ちはサラサラ無いが。
「いつまで百面相している。予鈴、鳴るぞ」
雄太の親切な言葉に右手を挙げて答えると、前を向いて、机の上の教科書類を机の中にしまい込んだ。ちょっと離れた教室の窓の外から、晴れ渡った青空に薄く広がる白い雲。
まったりと一日が始まった。
期末テストも全科目終了。
本日昼には学校も帰宅時間と相成りました。そして、明日は土曜の休日。
今日から部活だと張り切る雄太と教室で別れ、自宅へと帰る途中にある公園の前を通り過ぎようとした俺の耳に聞きなれた声。
「啓さーん」
公園奥のベンチから、マリィが大きく手を振り、俺の方へ笑顔を向けていた。
当然、俺は公園の中へ入っていった。マリィは慌てて立ち上がると、小走りに俺の方へ走って来ようとして…こけた。
そのまま地面とぶつかる前に走り寄り、何とか抱え上げてセーフ。
「大丈夫か?」こっちの心臓がドキドキ言っている。
「はい」顔を上げたマリィは、耳まで真っ赤。
思わず見詰め合ってしまった俺達を現実に戻したのは、周囲から集まってきた、純粋であるが故に残酷な生き物。
「ひゅーひゅー、あおついねー」
「だめだよー、からかっちゃー。てれてるじゃーん」
「なにもないのに、こけるなんて、おにいちゃんもフォローたいへんだね」
目の前の子供たちの顔を、見て思う。
…フォローって言葉の意味、わかって使っているのだろうか…。
「啓…さん?」
マリィの声に今の二人の置かれた状況を思い出し、慌てて手を離した。
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