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顔を見合わせ、なんとはなしに笑い合い、俺の家へ向かって歩き出す。
あ、そうだ。
「マリィの明日の仕事の予定は?」
「明日も午前中早くには終わります。私の場合、一日の件数はそうないんです」
「へー…あ、一つ聞いてもいいか?」ずっと胸に引っかかっていたこと。
「はい?」
「マリィもさ、あの、例の『青火』とかって、使えるの?」
過去に一度、宿敵・ガザにかけられた、人間の命を操るとかいうあの技。
マリィはにっこり笑って答えた。
「私は半人前なので。あの技は、能力がないと使えませんので、同年代でも使えるのは少ないんですよ」
「そうなんだ~」心底ホッとしてしまった俺を見て、何故かマリィの表情には翳が射し。
「…私、使えた方がいいですか?」
は?「全然!使えなくていい!」というか、使えないで。それに、結局のところ。
「どんな技が使えても、マリィはマリィ。何も変わらないだろ?」
ニッと笑って見せた俺に、ようやく彼女の翳が消えた。
あれ、そういや、ってことは「ガザって、エリート?」
言ってしまって、とても、後悔した。
何故なら、幾度となくぶつけられたことがある『凝り固まった怒りの波動』みたいなものを背後に感じてしまったからだ。
きっと、名前を出してしまったからに違いない。
「お手手つないでお帰りですか。へー」
勇気を出して振り返れば、俺より背が高く、俺より体格が良く、俺より顔が良く…つまりは、いい男の見本のような男が、視線で人を殺せるのなら、俺は何回死んでいるのだろうと思わせるような眼で睨んでいた。
「ガザくん、どうしたの?」
相も変わらず、マリィにはガザの剣呑な空気は感じられないらしく、ごくごく普通に顔を見上げて尋ねたりしている。
その緩和フィルター、俺にもください。
ガザは手にした紙をマリィに渡した。
「明日の予定表。置きっ放しだったぞ」俺に向けるものとは正反対のその笑顔はなんだ。
「急いでいたから…わざわざありがとう」
「それから、お前、明後日、休暇取るって言っていただろ。明日、担当が休むから、今日中に出しておかないと間に合わないぞ」
「え?!ほんとに?!」
マリィが慌てたように空いている手でガザの腕を握った。ガザの顔がかすかに赤く染まったのは、俺の見間違いではあるまい。
「明日でいいと思ってた」
「受付は午後三時までだからな」
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