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自宅前、マリィに見えないところで男同士の微妙な牽制戦が行われたものの、ガザの『意地でも邪魔してやる~!』という命がけの視線に負けたのは、俺です。
泣いてもいいですか?
玄関を開け、真っ先に気付く、料理をしているいい匂い。
「あら、おばさま、張り切ってお料理されているみたいですね」
「昼飯にしちゃ、豪勢そうだ」
呑気に語る死神衆を他所に、俺の背中には何故か冷たい汗が流れた。
昼飯に、ここまで手をかけたりする母ではない。
絶対にそれは言い切れる。
瞬時に、俺の脳裏に去年の今頃の事件がフラッシュバック。
まさか、もしや。
ポケットから携帯を取り出して、本日の日付をチェック。
あぁー、やっぱり!!
膝から下の力が一気に抜けた。
「啓さん、どうしたんですか?真っ青ですけれど」
「だ、大丈夫」
これは、急いで手を打っておかなくては…。
新規メール作成を開こうとした時だった。
「啓、お父さんにメール打ったりしないわよね」
いつの間にか、母が目の前に立っていた。いつものように、穏やかなのほほんとした雰囲気のままの母。
「マリィちゃん、おかえりなさい。うちで待ってたらよかったのに。ガザくんも一緒だったのね。さ、上がって」
「お邪魔します」
「失礼します」
横を通り抜けるガザがにやりと勝ち誇ったように笑った。俺はそれどころではないのだよ。
しょうがない、隙を見つけてメールをするかと、ポケットに携帯を戻そうとした時、母の手が俺の前に出された。
「渡しなさい」
「え、いや、ほら、雄太から連絡くるかもしれないし」
「その時は、啓に教えてあげます。寄越しなさい」
表情がいつもと同じなのが、恐怖をそそります。黙って、携帯を母の手の上に乗せた。
「今夜はご馳走よ。張り切って作っちゃうから期待してね。マリィちゃんとガザくんも一緒にどうかしら。五人でも余っちゃうかもね~」
そして、母はひときわ優しく言うのです。
「去年は出来なかったから」
それからパタパタと二人がいる居間へと小走りに向かいます。
「マリィちゃん、ガザくん、今日はお夕食を食べていかない?」
二人が快諾する声が聞こえます。
息子は一人、心の中で叫びます。
親父―、頼むから覚えていてくれよー!!
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