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その言葉に、命婦はホロリときたようだ。
途端にせつなげな顔になり、
「こちらこそ、申し訳ございませんでした。そういうことでしたの」
源氏の君にすっかり同情してしまった様子である。宮とは乳姉妹である命婦は、口うるさい女ではあるけれども素直で単純で、気のいい女房なのだ。
しかし宮は、君が如才なく命婦を手玉にとったのだということにしっかり気付いていた。
そうでなければ、あの変わり身の早さは説明がつかない。
君の言い訳は、嘘ばかりで作られたものではないのだろう。が、たった十一歳の少年が命婦の性格を無意識に読み取り、これ以上うるさく言われずにすむよう上手く立ち回ってみせたことに、宮は驚いていた。
「お寂しい時には、ぜひぜひ、この藤壺にいらっしゃったらよろしゅうございますわ。ね、そうでございましょう、宮様?」
命婦は、いそいそとそんなことまで言っている。
してやったり
と、思っているのかどうか、源氏の君はそれを聞き、にっこりと宮に笑ってみせたのだった。
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