藤壺

6/22
前へ
/27ページ
次へ
今上帝(桐壺帝)の後宮に、ほんの数日前に入ったばかりの藤壺宮は、先の帝の四宮(四女)である。十六歳の彼女では帝とはずいぶんと歳の開きがあるのだが、ぜひにと望まれての入内であった。 なんでも、この上ないほど帝に愛された末、若くして亡くなった源氏の君の母・桐壺更衣に宮は生き写しであるのだという。 更衣への愛情がそのまま源氏の君に注がれて、帝は大変な可愛がりようなのだ。 帝の御本心としては、源氏の君を東宮(皇太子)にとお望みなのであろう。が、誰に人相を見せ占わせても、 「帝王となる相をおもちの御方ですが、そうなると世が乱れることがあるかもしれません」 との答えが返る。 そのため帝は、この君を臣下とし、源(みなもと)の姓を与えたのだった。 東宮には右大臣家から入内した弘徽殿女御の産んだ皇子が立っている。しかし、帝のご寵愛と本人の器量とは、東宮よりも源氏の君のほうが優っているのではと、もっぱらの評判だ。 宮も、話にだけは聞いていた。しかし、会うのは初めてのことだった。 美しい目をした少年だ。 夢を見るような儚さの中な、傲慢とも気高さともどちらとも取れる強さが同居したーーーそんな目。 十一歳にしてはすらりと背が高く、しっかりと胸を張った姿勢の良さも彼を美しく見せていた。 帝の寵愛が深いのも、なるほど頷ける。 それからしばらくして、源氏の君が宮のもとへ顔を出したと知った帝が、わざわざ君を伴い、お渡りになった。 帝は宮とは几帳などの隔てを置かずに対面する自分の、すぐ横に君を座らせている。 君が、いかにも聡明そうにおとなしくしているのを愛おしげに細めた目で見つめ、
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加