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「この子を、このようにあなたのおそはにまで連れてくる事を、許していただけるでしょうか?」
そう問われて、宮はとりあえず曖昧に微笑んだ。
初めて見る、父親の顔をした帝に戸惑ったのだ。
宮と帝とは親子といっていいほどの歳の開きがあるのだが、宮のそはにいる時の帝は、いつも少年のような純粋さを見せていた。
恥じらうように伏せた目で宮を見つめ、やさしく腕を伸ばし抱きしめてくれる。
その腕の中にいると、ゆったりと安心した気持ちになれた。
宮は、帝のことをとても好ましく思っていた。
ふたりでいる時には、歳の開きなどまったく気にならなかったのだ。
ところが今、目の前にいる帝は「父」である。
「この子をどうぞ、可愛がってやってください。いつも申し上げていることたけれど、あなたは本当にこの子の母によく似ていらっしゃる。この子があなたを母のように思ってしまうのも当然のこと」
だから礼儀知らずにも一人で宮のそばに入り込んでしまったことも許してやってほしい、そう言いつつ帝は目尻に涙を滲ませた。
ついほだされ、切ないような気持ちになって、宮は頷く。
考えてみれば、源氏の君は可哀相な少年なのだ。
帝の愛し子とはいえ、まだ物心もちかないうちに母を亡くしている。
しかも、母の実家がすてに絶えているため、成人してもきちんとし後ろ楯がないのては心細いことだろうと帝は心配した。
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